概要
- 2013年(平成25年)6月6日:大阪地裁
- 建築の著作物の改変が同一性保持権侵害になるか?
- X(債権者):造園家(A研究所代表)
- Y(債務者):積水ハウス
- 新梅田シティは、1993年7月に梅田に開設した複合商業施設
- 高層ビルを中心に本件庭園が配置されている
- Yは、2006年7月「新・里山」(旧花野)として改修
- Yは、2013年に「希望の壁」(緑化モニュメント・本件工作物)を計画して工事開始
- 本件工作物は、既存の庭園にかかる計画
- Xは、本件庭園の著作者として、庭園の同一性保持権にもとづき、工事続行の禁止を求める仮処分を申し立て
決定要旨
- 申し立て却下(確定)
- 本件庭園は設計者の思想、感情が表現された著作物である
- 本件工作物は著作物の改変に相当する
- 本件工作物の設置と建築物の改変
- 本件庭園は、建築の著作物として類推適用される。
- 建築物の著作者の権利として、増築、改築、修繕、模様替えによる改変は、同一性保持権の侵害とはならない(著作権法20条2項2号)
- もっとも、一切の改変が許容されるわけではなく、著作者との信義に反する場合は違うが、今回は著者への意見聴取を行い、一定程度反映している
建築の著作物って?
建築の著作物は、過去に何度か判例をブログにしています。
この判例は、本件庭園が「建築の著作物」と認定しておらず「類推適用」としています(しかし著作物ではあるとしている)。著作権法にて同一性保持権の例外とされる「建築物の増築、改築、修繕・・・による著作物の改変」は著作物全般の話しであり、建築の著作物に限定した話しではないということです。
※ややこしいので割愛
いずれにせよ、建築物の所有者の権利もある程度、確保するためには「建築物の増築、改築、修繕・・・による著作物の改変」は許容されるということです。「建築物における著作者の権利と建築物所有者の経済的利用権との調整の見地」と本テキストでは表現されています。
新梅田シティの希望の壁
それでは本件工作物を見てみましょう。
希望の壁 | 積水ハウスの庭づくり | 積水ハウス
当該ページには「安藤忠雄」の名前があります。著作者ではなさそうですが、原案や名前貸しのようです。本写真の右下は窓のように開いており、向こう側にも緑が見えます。ここが原告著作物の本件庭園のようです。
こちらに別のアングルからの写真もありました。
大阪の建築めぐり:希望の壁 – 山本嘉寛建築設計事務所 yyaa
道路側から中を隠す存在感があり、バス待機所を隠しています。
この工作物設置前後の比較ができないのですが、自分の著作物に隣接する形で、同じ建築家である安藤忠雄に手を入れられたくないって気持ちがあったのかなぁと思われます。
ウェブディレクターの視点
物理的な現実の建築と、データであるウェブサイト制作とではあまり類似点はなさそうです。しかし、所有者の権利と著作権者の権利が分かれる点は、建築の著作物は明確なため気を付けたい点だと思います。
無体物であるウェブサイトや音楽などは所有権がなく著作権だけなので普段はあまり区別を気にしていないです(物や土地など物理的な物体は有体物となり所有権が生じる)。
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