概要
- 2016年(平成28年)6月29日:知財高裁
- テレビ番組のエンドロールに参考文献として表示すれば、原作者の氏名表示権はクリアできるのか?
- X(原告):直木賞・新田次郎文学賞受賞作家(佐藤雅美)
- 「主殿の税 田沼意次の経済改革」 ほか
- Y(被告):テレビ・ラジオの企画制作会社(株式会社テレビマンユニオン)
- 「THEナンバー2 〜歴史を動かした陰の主役たち〜」 制作
- Xは、YがX著作物を無断で翻案・複製してY各番組を制作したとして、著作権・著作者人格権(同一性保持・氏名表示)を侵害したと主張。Yに対して各種差し止め・損害賠償請求
- 第一審は、Y各番組の一部(5箇所)の著作権侵害を認定し、Y各番組の公衆送信等の差し止めと損害賠償請求を認容
- Xは、損害賠償額を不服として控訴
- 本書解説は、二次的著作物への原著作者の氏名表示権について解説
判旨
- 控訴棄却
- 氏名表示権は侵害していない
- Y各番組のエンドロールで「参考文献 佐藤雅美著「田沼意次 主殿の税 」〔等〕と表示」
- 二次的著作物であることはあきらかであり、原著作物の著作者名表示を行っている
- 番組のエンドロールで「参考文献」として著者名を表示することで、著作権者の氏名表示の代替としているのは「公正な慣行」である
二次的著作物への原著作者の氏名表示
著作者人格権の1つである氏名表示権は二次的著作物にも及び、原著作者がコントロールできます。そこで、番組のエンドロールに参考文献で表記することを氏名表示とみなして良いのか?という部分が論点です。
従来は書籍の奥付や参考文献だけでは原著作者の氏名表示とみなされなかった(例えば表紙に「原作●●」と明記する必要がある)のが、この判例ではテレビ番組制作の「公正な慣行」としてエンドロールの参考文献表示が原著作者の氏名表示として認められたというものです。
また、一審で原著作物の二次的著作物であると認められた箇所が少ない(5箇所)ので、原著作者の利益を侵害していないということも、この判決に影響を及ぼした部分が大きいようです。「公正な慣行」ってなんだよという点も含めて特殊な判例なのかもしれません。
ウェブディレクターの視点
テレビ番組が参考文献をもとに作られることは多そうですが、それが一律に翻案になるかというと、少し違うのではないかなと思います。特に歴史ドキュメンタリー系のつくりだと、時代劇シーンとスタジオ解説シーンが交互に行われ、「小説がそのままテレビ番組化」のような二次的著作物の印象から遠くなります。
ということで、氏名表示権はともかく、著作権侵害の損害賠償額がどのくらいだったのか調べてみました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/907/084907_hanrei.pdf
請求額「3,200万円」に対して、判決で示された金額は「30万8,659円」+αのようです。これに不服で控訴したんだろうな。こちらの記事に著作権侵害部分の経緯がまとめられていましたが、制作会社と著者は何度もやりとりして揉めていたようですね……。
ウェブディレクターとして、気をつける部分としては「氏名表示権」でしょう。特に二次的著作物を扱う際に原作者の表記を抜かしてしまうことがありそうですので要注意。
前回の中田英寿につづき、今回は田沼意次のWikipediaをしっかり読みました。
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