009.書体の著作物性「ゴナU事件」

著作権

概要

  • 2000年(平成12年)9月7日:最高裁判決
  • 書体の著作物性についての判断
  • 写真植字機・書体を制作販売するX(原告)が権利を持つ書体(ゴナU、ゴナM)について、Y(被告)が「新ゴシック体U」「新ゴシック体L」をフロッピーディスクに記録して販売していたのは著作権侵害だとして損害賠償請求
    • 地裁では、X書体は美術の著作物にあたらず、不法行為も成立していないとして棄却
  • 上告棄却
    • 印刷用書体が著作物に該当するためには、従来書体と比して顕著な特徴や独創性を必要とし、それ自体で美術鑑賞の対象となり得ることが必要
    • 書体が著作物性を持つと、書体を用いた小説等で氏名表示権や複製する際の許諾など混乱をきたす
    • 書体は情報伝達のために一定の制約を受けるものであり、書体の改良などできなくなり文化の発展に反する

書体そのものに著作物性はない

  • 書体には著作物性がない
  • cf.「書」にはある(美術館に飾られるような「書」)
  • コンピュータにインストールして使用する「フォント」は「プログラムの著作物」という扱い(後述)

ゴナUってどんなフォントだ?

特定のクラスタには引きの強いテーマ「書体」「フォント」の著作物性の判例です。この事件はウェブを検索すると色々と情報が見つかります。

「ゴナ」書体を開発したのは写植時代の大手の株式会社写研です。1975年に販売開始。極太ゴシックとして画期的なのが「ゴナU」で、当時の新聞広告や雑誌の見出しなどに多用されたようです。書体を制作したデザイナーのサイトがありました。ゴナUの画像がありましたので引用します。

中村書体室(http://www.n-font.com/) より引用

ゴナU 角ゴシック系の書体で最も太い書体です。特徴は一本の線が窪みのない均等の直線としたことです。これによってアルファベットと併用しても違和感が出ません。作ってから20年以上になりますが、現在も新聞広告、雑誌広告、テレビ画面、映画スクリーン、各種の看板にかなりに使われている書体です。特に、ゴナDB(中太)は、新幹線駅構内表示看板や私鉄駅に広く使われています。

中村書体室(http://www.n-font.com/)

今ではよく目にする直線的なゴシック体のはしりですね。読みやすく、バランスもよく、使いやすそう。

一方、この事件で訴えられたのは、現在フォント業界の雄である株式会社モリサワです。どうやら、モリサワも写研を同様の理由で反訴しており同様の理由で棄却。 書体そのものに著作権はないという判例はここで確定したようです。

ゴナは画期的な書体と言うこともありファンも多く「真似た」字体をまとめた例もあります。

ウェブディレクターの視点

2000年というと比較的新しい訴訟に見えますが、今から20年前、DTPが普及しだした時代のお話しです。私も出版社に入社して●年ウェブ関連一筋ですが、入社した頃はまだ社内に写植の名残があったり、先輩や年長者から写植の話しをよく聞かされました(編集者が使う「級数」という言葉も写植からの名残ですね)。

さて「書体」自体には著作物性がないという解釈はデザイナーからすると、なかなか難しい問題かなと思います(似た書体を簡単に作れてしまう)。しかし書体に著作物性を認めてしまうと、そもそも印刷、出版、ウェブサイトに使えない(複製権、公衆送信権の侵害)とういことになり社会は大混乱します。

そう言った法理論と実生活の妥協の産物のような条文や判例が著作権には多くあり、そう言ったところが著作権を学ぶ面白いところだなと思っています。

なお字体には著作権はありませんが、購入したフォント(パソコンにインストールする書体データ)の利用規約には要注意です。フォントデータは「プログラムの著作物」と見なされますし、購入したフォントは購入時の利用規約(いわば契約)に則った利用方法が求められます。

例えば、よく利用されるモリサワのフォントですが、このフォントを利用してロゴを作ることは可能ですが、作成したロゴを商標登録することはできません

著作物ではないけど著作物?!フォントの著作権 | 著作権のネタ帳(https://copyright-topics.jp/topics/fonts-and-typefaces/ )

Q6:モリサワがライセンスするフォントを改変して会社のロゴマークを作成し、使用することは出来ますか?

A:モリサワがライセンスするフォントを使用(改変を含む)して社名、ブランド名、商品名を表すロゴ、マーク等を作成することは問題ありませんが、デザイン、意匠を含めた商標として登録することは出来ません。

商業利用について | フォント製品 | 製品/ソリューション | 株式会社モリサワ(https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/commercial-use/)

写研のWikipedia記事がヤバい

今回、ブログ記事を書くにあたり写研のWikipediaを読んでいたのですが、色々とすごい情報がありました。写植時代の栄華から、DTPの流れに抗って没落していくところとか、創業家のワンマン経営で優秀な人材が流れたとか。

写研 - Wikipedia

星製薬を退職して写真植字機の実用化を目指していた石井茂吉と森澤信夫が2台目の試作機を完成させた1926年11月3日、石井の自宅を所在地に設立した写真植字機研究所を由来とする。1929年には最初の実用機の販売を開始。戦後1948年に森澤が写研を離れ、新たに「写真植字機製作株式会社」(現・株式会社モリサワ)を設立した

えー!写植もモリサワも、星製薬(星新一の父親創業)の流れを汲んでるの!?

アドビは1986年、国内トップメーカーであった写研に提携を持ち掛けたが、絶頂期にあった写研はこれを拒否。最終的にアドビは業界二位のモリサワと提携

機器操作専門のオペレーターを介することなくデザイナー自身の手による効率的な作業が可能で、フォントを買い切るためランニングコストも低いという数々の利点を持つDTPは、その標準プラットフォームとなったアップル社製パーソナルコンピュータ「Macintosh」とともに急速に普及し、写研の業績は瞬く間に悪化した。

時代の流れとは言え、破壊的イノベーションがおきると旧来ビジネスモデルは一瞬で崩壊しますね…。しかも問題解決を難しくするのは、その時点で成功体験している経営者・古参社員は、変わらなくても、なんとか生き延びれるということ…。

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