026.著作名義(1)〔新潟鉄工事件:控訴審〕

著作権

概要

  • 1985年(昭和60年)12月4日:東京高裁
  • 著作物を公表する予定がなかった場合でも職務著作になる?
  • A社:産業用プラント設計・製作。設計業務を省力化するCADシステムを開発
  • Y1(被告):上記会社にて本件システム開発にかかわる
    • しかしシステムが評価されなかったため退社
    • 新会社を設立して本件システムのビジネスを企図
    • A社内協力者Y2とともに、当該システムの設計書・仕様書などのドキュメントのコピーを持ち出し
  • 本件行為が業務上横領にあたるか争われた
  • 原審判決(東京地裁):職務著作として有罪判決
  • Y1Y2は、本件資料は公開予定がなかった著作物であるため職務著作にあたらず、自分の著作物の複製をしたにすぎないと控訴

判旨

  • 東京高裁:控訴棄却(確定)
    • Y1らに著作権はなくA社が著作権を有する
    • 著作権法15条の「公表するもの」には、公表を予定していないが公表するとすれば法人名義になるものも含まれると解する
    • 特にプログラムがそうである以上、そのドキュメントは同様に扱う

また職務著作でトラブってる

職務著作の判例が続きます。会社員が業務中に作成した著作物は会社のものになるという当たり前に見える規程も、当事者になれば「自分が作成したもの」という意識がでてきてしまうものと思います。

本書解説によれば、営業秘密であり通常は公表されないシステムやプログラムのドキュメント類も職務著作であると認めた初の判例とのことです。

著作権法第15条では「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者……は法人等とする」という文言があり、では「公表されないもの」はどうなるの?となります。この判決は「仮に公表されるとすれば法人の名義で公表される性格のものも含まれる」と解釈を示したので注目されています。

荒れる法曹界

当時この裁判に前後して15条2項が追加されており「プログラムの著作物は公表名義にかかわらず法人等が著作者と規定」されました。

この法改正は直接にこの裁判とは無関係で影響していないようですが、公表を予定していない著作物の著作権を法人に属させることに賛成・反対で議論・学説がわかれたようです。現在は、反対派も少なくなってきたようで、また前記事の判例のように「法人の発意が立証できれば公表の有無は関係なくない?」のように「開き直った」解釈もなされるようです。

↑法人の発意が立証できれば職務著作になる

ウェブディレクターの視点

仕事で業務として制作したウェブサイト・ウェブシステムの著作権が職務著作として会社にあることに異論はないですが、その過程の企画書や設計資料、また企画段階で制作中止になった場合はどうなの?と思うことはあります。

「この企画書は俺の心血を注いだ作品だ」
「それが日の目を見ないことになるなんて」
「退職後に資料を複製して積極的に再提案していこう!」

それらすべて職務著作となり、退職後の持ち出し・複製は違法となりますので注意しましょう。

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