概要
- 2006年(平成18年)12月26日:知財高裁
- 著作物が職務著作になる条件とは?
- X(原告・控訴人):プログラム開発者(Y勤務)
- Y1(被告):宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構(JAXA))
- Y2(被告):CRCソリューションズ(Y1受託開発)
- Xは、事業団在籍時に開発した11のプログラムはXが著作権を有すると提訴
- Xはプログラム作成が「非職務・個人研究」であり法人から指示はなかったと主張
- 海外研修中に作成したプログラムも明確に指示されたものではない
- Y1Y2は、訴訟内容を争うとともに、仮にXの著作物であったとしても職務著作であると主張
- 一審判決(東京地裁):職務著作として棄却
判旨
- 知財高裁:控訴棄却
- 法人等と雇用契約があり業務に従事する場合は、具体的な指示や承諾がなくても「法人等の発意」要件を満たすと解釈する
- 海外研修中に作成したプログラムも職務中と解する
職務著作で当たり前……ではなかった
前記事(下記参照)に続いて「職務著作」になるように思います。
しかし本書によれば、この種の紛争は、法人等の発意があったか、職務中だったかなど、創作経緯や職務内容で対立する中、一貫した判断基準を示した判例ということです。
職務上作成要件
本書解説によれば、日本の労働慣行上、新卒社員は明確に職務を規程されず配属部署の仕事をすることになりますが、これをもって法人の明確な指示がない→職務著作ではないと判断はしないということです。それは「予定又は予期される職務」として判断するという判決です。
なお従来は、会社の就業時間内に会社のリソースを使って作成された場合という判断基準があったようですが、勤務時間や場所が柔軟になるなど働き方が多様化する中で、この判断基準だけでは結論がだせなくなってきた中での新たな判断手法となっているようです。
なお、本件は「プログラムの著作物」であり公表しない場合でも職務著作になりますが、それ以外の著作物は「公表するもの」という要件が加わります(次判例)。
ウェブディレクターの視点
ブログ、SNS、動画など社員が職務中に作成した著作物を気軽に公開できる時代です。それぞれの著作物はもちろん職務著作になりますが、例えば「営業部門の社員が会社SNS投稿用に描いたイラスト」(→職務とは関係ない?)、「業務命令ないけど隠れて作っていた試作プログラム」(→法人の発意がない?)などが紛争の対象になりそうです。いずれも雇用関係の中で作成された著作物という観点で確認するのが適切なようです。
でも、自分が作ったプログラムや文書、イラストを自分の作品にしたいという気持ちはわからないでもない。特に退職したあとに「あの文書・動画・イラストの著作権を返せ!」と揉めそうです。
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