概要
- 1992年(平成4年)8月27日:大阪地裁判決
- 著作物が共同著作になる要件は?
- 医師Kは病気・肝臓移植を受ける
- 闘病の末、死亡
- 闘病記を出版
- 闘病記は妻との共同作業
- A(1章):口述録音→書き起こし
- B(2章前半):Kの口述・妻による記述が混在
- C(2章後半から3章):Kの死後に妻の記述のみ
- 原告は医師Kの両親(X1、X2)
- 妻および出版社(被告Y1、Y2)に対して出版差し止め
- 両者の主張内容
- 出版物(著作物)が、X(Kの相続により権利を継承)もしくはYの単独著作物
- 予備的に共同著作物であると主張
- Xによる出版差し止めは有効か
- 出版物(著作物)が、X(Kの相続により権利を継承)もしくはYの単独著作物
判旨
- 請求一部認容
- ABはKとY1の共同著作物である
- この部分はKの相続者であるXによる出版停止が認められる
- Cは共同著作物ではない
- ただしKのメモや文章の複製の可能性はある(本判例の範囲ではない)
- ABはKとY1の共同著作物である
共同著作物になるための要件
共同著作物は、著作物が各人の寄与を分離して、個別で利用できないもの(分離利用不可能性)となります。
いわゆるポップスで作曲と作詞がわかれている場合、これは1つの音楽が共同著作物になるのではなく、曲と詞が別の著作物となります(分離利用)。
次に、共同して創作したとしても、共同創作の意思が無い場合は共同著作物にならないという説が有力なようです。
事例
- ヘアメイクをしたモデルを撮影した写真
- 写真はカメラマンの単独著作物(ヘアドレッサーとの共同著作物ではない)
- 最初の打ち合わせでアイデアをだして、その後に接触なかった建築の著作物
ウェブディレクターの視点
ひとつの作品を複数名で創りあげるケースを整理すると以下のようになります。
1つの作品を複数名で創作→共同著作物
複数の著作物を編集して1つにまとめる(「素材の選択又は配列によって創作性を有する」)→編集著作物
複数の著作物から成立する映画→映画の著作物
ウェブサイト全体としてどの著作物になるのか?どのケースになるのか?はっきりとした判例や学説はまだ見つけていません。おそらく個別の著作物(テキスト、ソースコード、写真、イラスト)としてみなして、総体として1つの著作物とは見なされないのかもしれません。
「静かな焔」を読んでみる
なお法律論からズレますが、本書(「著作権判例百選」)の最後に著作権の解説本には似つかわしくない恐いことがかいてあります。本件書籍は出版差し止めされても現状は図書館や古本で流通しているのですが……。
「一読すればXら(特にX2)が出版停止を望んだ理由を、よりよく理解できる」
なんだよ。妻(Y1)によるKの両親(X1,X2)の悪口でもかいてあるのか!?探すと本件書籍は東京都立図書館に収蔵(資料詳細:東京都立図書館)しているようですが、はたして……。
読んでみた
都立図書館から区の図書館に取り寄せたため、館内閲覧の扱いで持ち帰れずざっくり斜め読みでしたが、それほど酷いことは書いていない印象です。
前半はK本人が一人称となり、移植前後の闘病記となっています。
後半3章から妻(Y1)視点の一人称になります(Kは「主人」となる)。前日まで元気だったものの、免疫低下による感染症により急変してしまい、その後の闘病は苦しい描写でした。その中で「お母さん」(X2)から看病を控えるようにされるのが辛いという妻の言葉があり、ここだけ読むとX2が意味もなく「意地悪」に見えてしまいます。これが出版差し止めの理由なのかもしれません。
第三者にはなにもわかりませんが、妻があまりに疲労困憊だったので休むように義母が伝えていたなどの理由があったのかもしれません。
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