028.未編集フィルムの著作権帰属〔三沢市勢映画製作事件:控訴審〕

著作権

概要

  • 1993年(平成5年)9月9日:東京高裁
  • 未編集フィルムの著作権(映画製作される前)の著作権は誰のもの?
    • 映画の著作物の著作権は「映画製作者」に帰属するが
  • X(原告・控訴人):映画監督
  • Y(被告):映画制作会社
  • 青森県三沢市が映画製作をYに発注(昭和58年)
    • 「蒼い空と碧い海のまち―三沢市の軌跡」(本件映画)
    • 「市勢編」「歴史・文化編」の2本立ての予定
  • 着手から1年「市勢編」は9割撮影し、「歴史・文化編」は5割程度の撮影であった(地権者の反対)
  • そこで三沢市は、「歴史・文化編」は製作中止として「市勢編」を2倍の時間(1時間)で製作することで本件業務委託とする契約変更し「市勢編」は完成した
  • Xは、未作製の「歴史・文化編」未編集フィルムの著作権は自分にあると主張
  • 原審(東京地裁)は、未編集フィルムでも映画の著作物であり、製作者であるYの著作権としてXの請求を棄却。X控訴

判旨

  • 東京高裁
  • 未編集フィルムは映画として成立していないので「映像著作物」であり、それは著作権者は監督Xであると認容。
    • 映画は必ずしも予定通り完成する必要はないが、撮影フィルムを編集するなど製作過程にはいって創作性が付与されていなければならない。

特別扱いの「映画の著作物」

「映画の著作物」は著作権法で特別扱いされています。普通の著作物であれば、著作者が創作してそのまま著作権を有します。しかし「映画の著作物」の著作者は、監督等の「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」になりますが、著作映画製作者(通常は製作会社や「製作委員会」)になります(著作者である監督が映画製作者より監督の契約を受けた段階で自動的に著作権は映画製作者に移転)。

これは、映画が複数の製作工程を経て創作される著作物であるという特質と、一大産業である「映画」の著作権の所在で社会が混乱しないための現実的な解なんだと思われます。なお著作権法でいう「映画」には、映像と音楽などが組み合わされている「アニメ」「テレビゲーム」も含まれます。

この判例では、未編集の映像が「映画であるか」「映画でないか」を切り分けた事案ということになります。ただ本書によれば、法曹界にはこの判例への反対意見もあるようで、また実務上、そのまま適用するのが難しい(「映画の完成」とは?)判例であるようです。

当該映画は配信されていました。

当該映画「蒼い空と碧い海のまち-三沢市の軌跡-」は三沢市のアーカイブで配信されていました。
三沢市立図書館/三沢市デジタルアーカイブ
https://adeac.jp/misawa-city/catalog/mp000001-100010

収録内容(チャプター)
1.タイトル(00:00:01)
2.三沢いまむかし(00:00:53)
3.基地と生業(00:15:44)
4.行政と教育・文化(00:28:29)
5.自然豊かな国際都市へ(00:41:09)

「蒼い空と碧い海のまち-三沢市の軌跡-」(目録)(https://adeac.jp/misawa-city/catalog/mp000001-100010

社会とすり合わせしてる「著作権法」

「映画」のように商業的な産業として大人数が関与して製作する著作物に対応しているように、時代の要請にあわせて著作権法は整備されています。

例えばウェブサイトに文章や写真、動画をアップロードするのは単純な複製なのでしょうか?これは、サーバ等に著作物をおいて不特定にダウンロードさせることができるようにする権利、「送信可能化権」として1997年に著作権法が改正されて定められています。

また、違法な著作物と知りながらダウンロードした場合の違法化も、「音楽・映像」が2012年に、2021年に全ての著作物に拡大する改正がされています(違法アップロードのマンガに対応するため)。

最近では機械学習の著作物利用も話題になっていますが、2018年の改正で機械学習は著作権法で合法になっています(まさかこんなすぐにChatGPTのような技術が生まれると考えられてなかったと思いますが)。このように著作権法は時代の流れや技術革新を追いかけながら改正され続けています。著作権者に機械学習をさせない権利がでてくるかもしれません。

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