001.有体物と無体物「顔真卿(がんしんけい)事件」

千福寺多宝塔碑(宋拓) – 東京国立博物館 著作権
千福寺多宝塔碑(宋拓) – 東京国立博物館

概要

  • 1984年(昭和59年)1月20日:最高裁判決
  • 美術の著作物の原作品(絵画・書などの美術品)の所有権著作権は別もの
  • 顔真卿の書(原作品の現物)を所有する原告Xが、 写真集販売(複製)した被告Yらに、所有権侵害にあたると販売差し止めと廃棄を請求
    • Yは、写真乾板を、Xの前の所有者が撮影許諾した者より(適切に)入手している
    • 上告棄却

所有権と著作権について

  • 美術品の「所有権」とは、その有体物を所有する権利(つまり美術品の現物の所有)であり、無体物である著作物の権利は著作権者が有する(所有権≠著作権)
  • 著作権を有しているとは?
    • 複製等の権利は著作権者が有するものであり、美術品の所有者が制限できるものではない
    • 保護期間経過後の著作物はパブリックドメイン(公有)となる
      • 著作物がパブリックドメインになったとしても、その美術品の所有権は、もちろんそのまま所有者が維持する

美術品の展示をしたい場合

  • 展示権は著作権に属する
    • つまり美術品の所有者の権利ではないので展示したり人に見せたりできない!?
  • 美術品の所有者にも展示の権利は認められている
    • 所有者は原作品を公に展示できる
    • 著作権者の了解がなくても良い
    • さらに美術展の小冊子への掲載(複製)、 オークション用のウェブ掲載(公衆送信)も、美術品の所有者には認められている
  • ただし、街路や公園などの一般公衆(不特定多数が見れる)への公開は著作権者の同意が必要
    • 屋外に恒常的に設置されている美術品は許諾なく写真撮影(複製)が可能
      • 当たり前のように感じるが
    • 販売目的は不可

ウェブディレクターの視点

「顔真卿」って何だ?

「顔真卿事件」は著作権を学ぶ者が最初に触れる事件かなと思います。ここで美術品の所有権と著作権は別ものだという理解を得ます。

そして「顔真卿」ってなんだよと思うわけです。

顔 真卿(がん しんけい、709年景龍3年) – 785年貞元元年))は、代の政治家書家清臣本貫琅邪郡臨沂県。中国史でも屈指の忠臣とされ、また当代随一の学者・芸術家としても知られる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%94%E7%9C%9F%E5%8D%BF

どんな書体なのか!気になる!

https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0075231
千福寺多宝塔碑(宋拓) – 東京国立博物館 画像検索

Wikipediaでは力強さと穏やかさとを兼ね備えた独特の楷書がその特徴」とされています。たしかに古文書でよく見るような崩し文字ではなく1300年前の漢字なのに読みやすい。

昨年には特別展が開催され話題にもなっていました。

東京国立博物館 – 展示 日本の考古・特別展(平成館) 特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」

保護期間が切れた著作物の利用

さて、上記のように顔真卿の書の写真をウェブサイトに掲載しましたが、これって著作権的にOKなんでしょうか?

(以下、私見です。誤り等あればご指摘ください)

  1. まず、大前提として引用OKのルールがあります。引用には様々な要件がありますが今回は割愛。
  2. 次に、この著作物は1300年前のものであり、すでに保護期間は切れており、パブリックドメインになっています。
  3. 「じゃぁ著作物利用OK!」とはならず、この画像は書を撮影した写真であり、写真の著作物ともみなされます。
  4. しかし、上から撮っただけのこの写真には創作性があるのか?著作物と言えるのか・・・という議論が巻き起こってきます。

・・・このようにインターネットにおける著作物利用はとても複雑なことになっています。ウェブディレクターをやってると、この辺に気を付けないと地雷を踏みぬきます。究極は、その写真(画像)提供元の利用規約に従うのが無難となります。

東京国立博物館 – デジタルコンテンツの利用について

著作権を学び始めて強く感じたのは、白黒はっきりする事案はそれほどなく、すべてグレーで、解釈の強弱で判断されるんだなーということです。著作権は生活に密着した権利であり、法的な整合性の優先よりも、実態にあわせて条文は変更され、判例が積み重ねられてきたように思います。なので「著作権判例百選」を読むという企画を始めた次第です。残り99本。

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