概要
- 2016年(平成28年)11月11日:知財高裁 決定
- 「著作権判例百選」(第4版)の共同著作者の一人Xが、第5版は第4版の翻案であり、Xの著作者人格権等にもとづく差止請求、Y(有斐閣)の複製・頒布差し止めの仮処分を求める
- 東京地裁:仮処分決定はXの申し立てを認める(H27.10.26 H28.4.7)
- 第5版の刊行は中止
- Yは不服の抗告申し立て
- 知財高裁:原決定の取消・Xの申し立てを却下
- H29.3.21 最高裁も棄却
- 第5版は刊行された
- Xは共同編集者だけどアドバイザーの地位におかれ、実務はあまり行っていなかった→編集著作者とは言えない
「著作権判例百選」(第5版)の裁判が「著作権判例百選」(第6版)に載る
内向きのトラブルが裁判になるという図式は第三者の興味関心をひきます。読み進めています「著作権判例百選」(第6版)において、著作権に関する重要な判例として、「著作権判例百選」(第5版)の事例が掲載されています。
まず、著作権判例百選(第4版)は以下のメンバーが編者として名を連ねています。
- 中山 信弘 (明治大学特任教授)
- 大渕 哲也 (東京大学教授)
- 小泉 直樹 (慶應義塾大学教授)
- 田村 善之 (北海道大学教授)
そして第5版は以下の通り。
- 小泉 直樹 (慶應義塾大学教授)
- 田村 善之 (北海道大学教授)
- 駒田 泰土 (上智大学教授)
- 上野 達弘 (早稲田大学教授)
ここで編者から外れた大渕哲也教授が、第5版の差し止めを要求したようです(なお中山信弘教授は著作権法学の大家です)。
下記サイトに詳しいいきさつもありました。
旧百選(著者註「第4版」)の編者選定にあたり、出版社担当者のEは、基本的には、体調面からしてY教授(著者註 「大渕教授」)は編者とするにふさわしくないという考えを持っていた。
A教授(著者註「中山教授」)の注意を受けたY教授も、A教授から原案作成の権限を取り上げられたものと理解したのであり、A教授の上記意図はおおむね正しくY教授に伝わったということができる
編集著作物の著作者性を否定した「著作権判例百選」事件知財高裁抗告審決定 – イノベンティア
https://innoventier.com/archives/2016/11/2361
いったい何が起きたのか…。出版社の担当者が「ふさわしくない」と考えるに至るのは相当な理由がありそうなものです。しかしいろいろ調べたのですが、内幕はわかりませんでした。
編集著作物の著作者になるには
東京地裁では差し止めの仮処分が決定、刊行は中止となりましたが、この知財高裁の判決で覆り、第5版は刊行されました。
判決によれば、「A、X、B、C」編と記載されていたが、実質はB・CがAに確認しつつ編集作業を行っていたものであり、「創作的表現の作出への寄与度合い」により本判決に至ったようです(作業内容・コンテクストで個別に判断)。
前記事の「ノンタン事件」も「共同著作者」の議論ですが、本判例は編集著作物なので、創作性に関しては編集行為についての検討になり、より判断が難しいものになりそうです。
なお、私が読み進めている「第6版」の編者は「第5版」と同じメンバーままです。
ウェブディレクターの視点
前記事「016.表現の創作者(智恵子抄事件:上告審)」でも編集著作物の話しがでてきましたが、編集著作物をさらに共同著作者とすると、非常に取り扱いにくいケースになりそうです。
また「ウェブサイト」は様々な著作物(画像・文章・テキスト・デザイン・プログラム)を組み合わせて編集して創りあげるので、「編集著作物」であるという議論もあるようです(判例があるわけではない)。
そうなってくるとウェブサイトの著作者(編集著作者)は、ウェブディレクター単身になるのか、デザイナーやコーダーと相談しながら創作したのだから共同著作物であり、関与した度合いで共同著作者となるのか…。
このあたりは、こじれると厄介なことになるので、契約が大事だなとしみじみ感じ入る次第です。私自身、出版業界の端っこにいますが、契約や権利関係がまだまだ曖昧な部分が多いので、今後も学びながら気をつけていく必要があります。
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