030.映画製作者(2)―テレビCM〔テレビCM原版事件:控訴審〕

著作権

概要

  • 2012年(平成24年)10月25日:知財高裁
  • テレビCMにおける映画製作者・著作権者
  • X(原告):制作会社
    • ケーズホールディングスのテレビCM原版作成(店舗名空欄)
  • Y1(被告):制作会社
    • 電通の発注により原版に店舗名を追加したCM版作成・複製
    • Xの元取締役Y2も関与?
  • Xは、CM原版の複製権の侵害として損害賠償請求
    • 電通が原版複製業務をY1に発注したことがトラブルの原因
  • 原審(東京地裁)は、CM原版の著作者はXではなく訴外B(元電通のクリエイティブディレクター→監督)であるとして棄却

知財高裁判旨

  • CM原版は「映画の著作物」である
  • 映画製作者(著作)は「ケーズホールディングス」とした。
  • Xは、本件CM原版は映画の著作物ではないと主張したが、製作者たる広告主(ケーズホールディングス)は、XおよびY1に3,000万円の製作費を払い、出演者へのギャラも別途支払い、広告映像の効果(宣伝)のリスクも負担している。
  • 映画の著作物として考えるべき

テレビCM業界特有のルール「ACCルール」

広告主が著作権者になるのは当たり前では?と思いますが、どうやら広告業界ならではの慣行があったようです。本書解説によれば、製作会社にとってテレビCMのプリント業務は重要な収入源であるため製作会社の業界団体も著作権の帰属を主張、そして広告主・広告会社・制作会社の三社による業界内合意(「ACCルール」)等で著作権の共有?状態にあったようです。

表 2 「CM の使用について」(1992 年 ACC の合意)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/advertisingscience/61/0/61_1/_article/-char/ja

このような状況下で本判決は一歩踏み込んで、著作権は広告主の単独帰属という判例ができ、曖昧でグレーゾーンにしてきた業界慣行に一石を投じたようです。

リスクを負って経済的利益を得るのは誰?

また「広告主が著作権者であるのは当たり前」という前提についても、もう少し考える必要があります。本判例では広告主であるケーズホールディングスに著作権を帰属させました。資金を出し、CM映像を製作し、その広告効果のリスクを背負うなど経済的な差配をするからです。

しかし製作前・製作途上でリスクを背負っていたのは一次請けだった電通です。「映画の著作物」つまり映像作品は企画から完成まで数多くの関係者がかかわり、調整を重ね続け、予定通り・関係者のイメージ通りに完成するかどうか不確定要素が多いです。そのリスクを背負って製作を完遂して納品することを考えると、著作者も著作権者も製作者である電通というのが従来判例の考え方であったようです。

映像製作ってしんどい

請負契約に慣れていると目的にあった納品物をおさめて、その権利が発注者に移転するのが当たり前に思えます。しかし自分もウェブディレクターの流れから動画制作を請け負うことがありますが、ウェブサイト制作とは違ったしんどさを感じます。

企画・演出コンテまでは紙の上でお客様との意思疎通と確認ができて良いのですが、そこから映像と音声とBGMが重なる「動画」になるまでは霞みがかかった状態を不安を抱えながら突き進む気持ちです。
撮影が無事に終わるだろうか?予定していた映像素材が撮りきれるだろうか?この画角で良いのだろうか?もっと良い映像が撮れるのでは?ナレーターの声質はあっているだろうか?BGMは適切?自分では良い作品だ!と思っても、発注者が納得するかなど……。

ウェブサイトの制作であれば、テスト環境やプレビューでの動作検証ですり合わせしていけますが(それでも手戻りありますが)、映像製作はそのような工程を踏みづらく、一気に「完成」状態になってしまいます。編集途中や仮ナレーション状態の映像をお客様に見せて確認フェーズとしても、不完全な映像では中途半端な反応しか得られません。動画は最後の編集・調整・本ナレーション収録で、100倍くらい完成度が上がる印象です。

この点が要件に沿っていれば納品・検収しろと言えるウェブサイト、ウェブシステムとは違う部分と感じます。「動画の品質が要件にあっていない→検収不適合」となると、動画を撮り直すしかなく製作会社のリスクが高いです。

そのため、この判例をもって単純に発注者は初期に予定していたお金を支払えばノーリスクで著作権者になれるという判断にはならないようです。本判例は広告主が明確な映像作品(映像中にケーズデンキが表記される)という特有な条件のため、広告主が著作権者判定されましたというのが本書解説です。

ウェブディレクターの視点

自分がこれまで関わってきた動画案件は、契約金支払いをもって権利が移転する請負契約でした(1社だけ、動画の著作権は移転せず利用権の許諾という契約がありました)。これで「完成・納品です!!」と言い張って乗り切った案件もあり、そのときのもやっと感の本質が少しわかりました。YoutubeやTikTokなどの動画製作が多数に行われる時代となったいま、動画製作は単純な請負契約なのか映画の著作物として扱うのか、揉める案件が増えてきそうです。

参考

ACCルールの生まれた背景がよくわかります。原版からの複製が製作会社の収益の意味がよくわからなかったのですが、昔のテレビ放送のフィルムの名残のようです。

ACCルールの図表参照元。整理されていてわかりやすいです。

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